【9/30申請締切直前】令和8年度「業務改善助成金」活用ガイド!賃上げ&設備投資の注意点と実務を社労士が解説
更新日:1 時間前
毎年10月頃に実施される「地域別最低賃金」の改定に向けて、事業場内の賃金引き上げや
労働環境の改善をお考えの経営者様も多いのではないでしょうか。
賃上げは従業員のエンゲージメント向上や人材確保に欠かせない一方で、企業にとっては人件費負担の増加という直接的な経営課題となります。そこで、厚生労働省が実施しているのが「業務改善助成金」です。
業務改善助成金は、事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げ、同時に生産性向上につながる設備投資を行う中小企業・小規模事業者に対して、その購入・導入費用の最大9/10(最大600万円)を助成する制度です。
本記事では、令和8年度の業務改善助成金について、制度の全体像から助成金額の仕組み、対象となる設備・対象外となる設備、申請時の注意点まで、実務に即して詳しく解説します。
1. 業務改善助成金とは?制度の基本構造
業務改善助成金は、「賃上げ」と「設備投資(生産性向上)」をセットで行う企業を応援する助成金制度です。

制度の仕組み
事業場内最低賃金の引き上げ: 雇入れ後6か月以上経過した労働者の時給を、計画に沿って50円以上(または70円以上・90円以上)引き上げます。
生産性向上のための設備投資: POSレジや業務システム、機械設備の導入など、業務効率化につながる投資を実施します。
費用の助成: 設備投資にかかった費用に対し、一定の助成率(3/4〜4/5など)に応じた額が助成金として支給されます。
単に人件費を増やすだけでなく、業務自体の効率を高めて生産性を上げることで、賃上げの原資を生み出すという好循環を目指す制度です。
2. 対象となる事業者と労働者の条件
助成金の申請にあたっては、自社および対象労働者が要件を満たしているか確認する必要があります。
(1)対象となる事業者(中小企業・小規模事業者)
以下の業種区分に応じた「資本金」または「常時使用する労働者数」のいずれかを満たす中小企業事業者が対象です。
業種区分 | 資本金の額・出資の総額 | 常時使用する企業全体の労働者数 |
一般産業(製造業・建設業・運送業など) | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
※発行済株式の過半数を大企業が保有している「みなし大企業」は除外されます。
(2)事業場内の最低賃金要件
申請時点で、事業場内で最も低い時給(事業場内最低賃金)が、適用される地域別最低賃金未満であること。
過去に本助成金を受給したことがある事業場の場合、前回の助成事業完了時に定めた事業場内最低賃金額を下回っていないこと。
(3)引き上げの対象となる労働者
交付申請日時点で、雇入れ後6か月を経過している雇用保険被保険者であること。
試用期間中や見習い期間中の労働者は、原則として事業場内最低賃金の算出基準からは除外されます。
3. 助成金額・助成率・コース区分の一覧
支給される助成額は、「賃金の引き上げ額」「引き上げる労働者の人数」「企業の規模」「引き上げ前の時給額」の組み合わせによって決まります。
(1)賃上げコースと助成上限額
引き上げ幅には「50円コース」「70円コース」「90円コース」があり、人数および事業場規模(30人未満か30人以上か)によって上限額が設定されています。
コース区分 | 引き上げる労働者数 | 助成上限額(事業場規模30人未満) | 助成上限額(事業場規模30人以上) |
50円コース (50円以上引き上げ) | 1人 2〜3人 4〜5人 6〜7人 8人以上 | 40万円 70万円 90万円 90万円 110万円 | 30万円 40万円 70万円 90万円 110万円 |
70円コース (70円以上引き上げ) | 1人 2〜3人 4〜5人 6〜7人 8人以上 | 50万円 100万円 130万円 180万円 230万円 | 40万円 50万円 130万円 180万円 230万円 |
90円コース (90円以上引き上げ) | 1人 2〜3人 4〜5人 6〜7人 8人以上 | 100万円 240万円 270万円 360万円 450万円 | 90万円 150万円 270万円 360万円 450万円 |
※特例事業者に該当し、10人以上の賃上げを行う場合は最大600万円まで上限が拡大されます。
(2)助成率
購入・導入にかかった費用に対し、引き上げ前の「事業場内最低賃金」の額に応じて以下の助成率が乗じられます。
事業場内最低賃金が1,050円未満: 助成率 4/5(80%)
事業場内最低賃金が1,050円以上: 助成率 3/4(75%)
計算例
事業場内最低賃金: 1,020円(助成率 4/5)
賃上げ計画: 8人の時給を70円引き上げ(70円コース・8人以上上限 230万円)
設備投資額: 250万円(税抜)
この場合、設備投資額 250万円 × 助成率 4/5 = 200万円 が支給されます
(上限230万円以内のため全額支給)。
4. 特例事業者制度(上限拡大&対象経費の拡充)
以下の条件(アまたはイ)に該当する事業者は「特例事業者」として扱われ、優遇措置を受けることができます。
特例事業者の条件
ア. 賃金要件: 事業場内最低賃金が1,050円未満である事業者
イ. 物価高騰等要件: 原材料費の高騰など外的要因により、最近6か月間平均の利益率(売上高総利益率または売上高営業利益率)が前年同期比で3%ポイント以上低下している事業者
特例事業者のメリット
助成上限額の拡大: 10人以上の賃上げを行う場合、50円コースで130万円、70円コースで300万円、90円コースで600万円まで上限が引き上げられます。
対象経費の拡大(物価高騰等要件のみ): 通常は助成対象外となる「パソコン、タブレット、スマートフォンおよびその周辺機器の新規購入」が助成対象として認められます。
5. 何が買える?「助成対象となる設備投資」と「対象外となる設備投資」
業務改善助成金では、「生産性向上や労働能率の増進に資する投資」であることが厳しく審査されます。
◯ 対象となる経費の具体例
POSレジシステム・注文端末: レジ待ち時間の削減、在庫管理や会計処理の自動化
業務管理・クラウドシステム: 顧客管理・受発注管理・給与計算システムの導入による事務工数の削減
業務用高機能機械・設備の導入: 食品加工機械、全自動調理器具、歯科用CAD/CAM、業務用高機能プリンターなど
リフト付き特殊車両(8ナンバー等): 送迎や運搬作業の負担軽減・時間短縮
経営コンサルティング: 中小企業診断士や社会保険労務士等による店舗改善・業務フロー見直し
設置・据付工事(造作費): 機器の導入に不可欠な配線・設置工事費
✕ 対象外となる経費の具体例
申請しても不交付となる代表的な設備投資です。
乗用車・一般自動車: 特殊用途自動車(8ナンバー等)を除く通常の自動車やトラック等
単なる経費削減が目的のもの: LED電球への交換、通信プランの変更、資料作成の外注費
職場環境の快適化・アメニティ改善: エアコンの設置、事務所のレイアウト変更・拡大工事、デスクや椅子の増設、空調服
通常の事業活動に伴う費用: 事務所の家賃、電気・水道代、従業員の通常の給料、消耗品費、掃除用品
広告宣伝・販売促進費: パンフレット制作、ホームページ作成(受発注・決済機能のないもの)、チラシ印刷、Web広告出稿
不動産・建物構築物: 工場建屋の建設、コンテナ・ビニールハウス等の簡易建物の取得費用
事前着手されたもの: 交付決定前に発注・契約・購入・支払いを行った費用
6. 手続きの流れと実務スケジュール
申請から助成金受取りまでのステップは以下の通りです。
ステップ1:事前の計画策定と相見積もりの取得
賃上げ対象者の特定と引き上げ額のシミュレーションを行います。
導入する設備を選定し、同一条件で2社以上からの相見積もり(見積書)を取得します(契約予定額が10万円未満の場合を除く)。
ステップ2:交付申請書の提出
「交付申請書(様式第1号)」「事業実施計画書」「相見積もり書」「対象労働者の過去6か月分の賃金台帳」等の必要書類を揃え、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)へ提出します。
ステップ3:交付決定通知の受領
労働局による審査を経て「交付決定通知書」が届きます
(申請から決定まで約3か月程度が目安)。
ステップ4:事業の実施(設備発注・賃上げ)
【重要】必ず交付決定通知が届いた後に、機器の発注・契約・納品・支払いを行います。
計画通りに就業規則等を改定し、賃金引き上げを実施・支給します。
ステップ5:事業実績報告書および支給申請書の提出
設備投資の支払い完了および賃金引き上げ完了後、1か月以内(または翌年度4月10日のいずれか早い日)に「事業実績報告書」と「支給申請書」を労働局へ提出します。
支払い証明として、請求書・領収書・銀行の振込明細(口座引き落としが確認できる通帳の写し等)が必要となります。
ステップ6:助成金の支給および状況報告
審査後、指定口座に助成金が振り込まれます。
賃上げ実施後6か月が経過した時点で、「状況報告書(様式第8号)」を提出します。
7. 申請時の「5つの注意点」
助成金申請において、計画不備や手続きミスにより不交付となったり、後から返還を求められたりする事例が後を絶ちません。以下のポイントは特に注意してください。
① 交付決定前の「フライング発注」
助成金の原則として、交付決定前に発注・契約・納品された費用は1円も助成対象になりません。「納期が遅れそうだから先に契約だけ済ませた」というケースも即対象外となります。
② 申請期間中・賃上げ後の「解雇や減給」
交付申請日の6か月前から、実績報告手続き(または賃上げ後6か月経過)までの間に、会社都合による解雇や退職勧奨、あるいは労働時間の短縮等による月給の引き下げを行った場合、不交付要件に該当します。
③ 就業規則の不備・改定漏れ
賃金を時給ベースで引き上げたとしても、就業規則や賃金規程の改正・周知を行っていなければ支給対象となりません。10人未満の事業場であっても「就業規則に準ずるもの(賃金引き上げの規程)」を作成し、労働者代表の意見書を添えて周知する必要があります。
④ クレジットカード決済や現金払いの落とし穴
経費の支払いは原則「振込」です。
クレジットカード払い: 事業完了期限までに実際の口座引き落としが完了していないと対象外となります。
分割払い: 所有権留保が発生するため、事業完了期限までに全額の返済が完了していない場合は対象外となります。
⑤ 申請期限ギリギリの提出
最低賃金の発効日(例年10月上旬〜中旬)の前日までに賃上げを実施・申請完了する必要があります。申請書類に不備があって返戻された場合、再提出が期限に間に合わず不交付となるリスクが高まりますので、スケジュールには十分な余裕を持って動きましょう。
まとめ:計画的な事前準備が成功の鍵
業務改善助成金は、設備投資の自己負担を抑えながら自社の生産性を高め、従業員の待遇改善を同時に実現できる非常に優れた制度です。
しかし、申請手続きや対象経費の判断、就業規則の整備など、実務上の細かいルールが多数存在します。
「自社が購入したい設備が助成対象になるか確認したい」
「賃上げコースの計算や賃金体系の見直しを行いたい」
「不備のない申請書類をスムーズに作成したい」
とお悩みの経営者様は、最低賃金改定に向けた申請ピークを迎える前に、ぜひお早めに当事務所へご相談ください。貴社の状況に合わせた申請手続きをサポートいたします。
【出典・一次情報】
厚生労働省:業務改善助成金について 業務改善助成金|厚生労働省
厚生労働省:業務改善助成金 交付要綱・交付要領・Q&A



